これまでに多種多様な光合成タンパク質が解析されていますが、その多くは単離・精製された個別のタンパク質を対象としています。しかし実際の生体内では、タンパク質は単独で働くのではなく、生体膜の中で複数のタンパク質が相互作用しながら、ひとつの機能システムとして連携して働いています(図10)。個々のタンパク質の性質はかなりのレベルで明らかになってきた一方で、それらが膜上で集合し、相互作用しながら働くときに、どのような機能が発現するのかについては、なお未知の部分が多く残されています。実際、各タンパク質の機能が単純に足し合わされるだけではなく、相互作用によって新たな制御性や応答性が生まれることが、少しずつ分かってきています。
例えば、光合成の光捕集タンパク質は太陽光を吸収し、そのエネルギーを反応中心へと受け渡す役割を担っています。しかし、強すぎる光のもとで反応中心に過剰なエネルギーが流れ込むと、今度は余剰の光エネルギーを熱として逃がし、光ダメージを防ぐ方向へと機能が切り替わります。このような光利用と光防御の切り替えは、単一のタンパク質だけで実現されるものではなく、光捕集タンパク質、反応中心タンパク質、膜環境、さらには膜内外の状態変化が連動して初めて成立する、極めて巧妙なフィードバック型の光応答システムです。非常に興味深い現象ですが、その制御機構の詳細は、いまだ十分には分かっていません。
そこで我々は、複数のタンパク質が膜の中で連携している様子を解析できる、新たな顕微分光技術を開発したいと考えています。近接した複数のタンパク質を分光学的に識別し、それぞれの状態や相互作用を読み分けることができれば、ナノメートルスケールで生じている機能連携の実態に実験的に迫ることが可能になります。さらに、独自のフェムト秒顕微分光技術を駆使することで、光エネルギーが膜内のタンパク質間をどのように流れ、どのような条件で切り替わるのかを、時空間的に可視化することを目指しています。これまで世界の誰も直接見ることのできなかった、生体系における膜システム全体の光反応ダイナミクスを解明できると期待しています。